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【書評】「アルツハイマー病は治せる、予防できる」(西道隆臣)のレビュー

アルツハイマー病は治せる、予防できる (集英社新書)

アルツハイマー病の概要とざっくりとした展望がわかる本

評価:★★☆☆☆(2/5)

学びと感想

アルツハイマー病の症状や原因と考えられる考えを学べる。

アルツハイマー病の原因と考えられる老人斑と神経原線維変化をいかに防ぐのかに焦点を当てて、今までの研究について書かれているが、メカニズム的な部分はそれほど詳しく書かれてはいない。

まだ明確なメカニズムがわかっていない中で、治療に向けたブレークスルーが見出されてきたことや、今後の研究開発の方向性や展望がまとめられている。

ただしメカニズムについても展望についてもそこまで詳しく踏み込んだ内容は書かれていないので、結局ざっくりとした内容しか頭に残らなかった印象。過去に行われてきた研究におけるトライアンドエラーについては多くの例が記載されている。

 

引用

p.33
認知症基礎疾患の67.6%はアルツハイマー病で、続いて多い順に脳血管性認知症が19.5%、レビー小体型認知症が4.3%、前頭側頭型認知症が1.0%だと報告しています。これらの4つの病気で認知症の9割以上を占め、とりわけアルツハイマー病が多いのです。

 

p.39
アルツハイマー病、脳血管性認知症、レビー小体型認知症、前頭側頭型認知症のうち、予防できる脳血管性認知症を除いた3疾患は、現在のところ予防法も治療法もなく、患者が増え続けています。

 

p.52
アルツハイマー病で病変が広がる大脳皮質とは、大脳の表面の神経細胞が集まっている部分です。大脳皮質の神経細胞は2mmほどの厚さに6層の層構造をなしており、ここでヒトの高度な知的活動、精神活動が生み出されています。大脳皮質の下、つまり大脳の内部は神経線維の束である「白質」で、大脳皮質の神経細胞が情報伝達・情報交換をする場です。

 

p.54
アルツハイマー病で最初に神経細胞死が起きるのは、この海馬に神経細胞を投射する(軸索を向かわせる)嗅内野のあたりです。

 

p.60
機能が代償されにくいのは脳という臓器の特徴によります。まず脳では部位ごとに固有の機能を持っています。そして神経細胞のほとんどは分裂後細胞であること、さらに脳の部位ごとの機能は神経細胞が互いにつながって形成された神経回路によって果たされていること、こうした特徴があるため、ひとたび損傷した部位は代償されにくいのです。これがアルツハイマー病の治療を困難なものにしている理由でもあります。

 

p.64
しかし、現状では脳の再生医療の試みは、生体内で神経を再生するには至っていません。また、個々の神経回路は脳全体と連結し合っていますので、この連結を再現することはかなり難しいだろうと想像されます。さらに、神経回路に保存されていた記憶力や判断力は初期化していますから、初めから作り直さなければなりません。アルツハイマー病治療のための神経回路の再生については、それが可能なのかどうかもわからないというのが実際のところです。

 

p.65
現在、アルツハイマー病の根本治療薬はありませんが、症状の進行を抑える薬物療法があります。コリンエステラーゼ阻害薬とNMDA(NメチルDアスパラギン酸)受容体拮抗薬による治療です。

 

p.66
コリンエステラーゼ阻害薬は、神経伝達物質のアセチルコリンの働きを強める作用を持っています。

 

p.71
そこで製薬会社が注目したのは、アセチルコリンの分解に働きかける方法です。
アセチルコリンが減少しているアルツハイマー病の脳では、分解酵素コリンエステラーゼが正常に働くと、次の神経細胞に到達して受容体に結合するアセチルコリンが少なくなり、情報伝達に支障が生じます。分解酵素の働きを止めることができれば、受容体に結合するアセチルコリンが増え、結果としてアセチルコリンを補充するのと同様の効果を期待できると考えたのです。

 

p.73
アルツハイマー病治療薬としてのコリンエステラーゼ阻害薬の開発では、脳内のアセチルコリンの働きを補って情報伝達を正常化させ、それでいて強い毒性がない物質を探し出すことが求められました。
ポイントは、「可逆性」と「脳にだけ効く」こと。

 

p.75
ドネペジルはアルツハイマー病の進行を9カ月から1年程度、遅らせることができるといわれています。

 

p.80
アルツハイマー病になっま人の脳は萎縮します。成人の正常な脳は1400g程度ですが、アルツハイマー病発症後10年の脳は800〜900gほど。脳は小さくなり、脳室という髄液のたまる部分が広がっています。大量の神経細胞が死に、減少した、すなわち脱落した結果です。

 

p.80
そして脳には2種類の異常が見られます。第2章で紹介したように、「老人斑」と「神経原線維変化」という病変です。老人斑は神経細胞の外側に、数μmから数百μmほどの大きさで、シミのように広がっています。神経原線維変化は神経細胞の中に起きていて、糸くずがたまったように見えます。

 

p.81
脳の萎縮、老人斑、神経原線維変化の3つの特徴がアルツハイマー病を示すものであることが次第に確認されていき、中でも老人斑と神経原線維変化のふたつの病変をターゲットとしたアルツハイマー病研究が始まりました。

 

p.86
このタンパク質は、「アミロイドβペプチド」と名付けられました。「β」は、アミロイドのβシート構造を指し、ペプチドとは小さな分子量のタンパク質であることを示しています。つまり、β構造のアミロイドたんあの断片といった意味です。

 

p.88
アミロイドβは、老人斑の実体であることが明らかになりました。

 

p.89
この神経原線維変化の構成部分は「タウ」というタンパク質で、神経原線維変化はそのタウが異常蓄積したものであることを明らかにします。

 

p.89
PHFになって神経原線維変化の構成成分になっているタウは、過剰にリン酸がくっついた異常な状態になっていました。リン酸化したタウは微小管から離れ、固まって、さらに「ユビキチン化」という異常が起きて分解されにくいPHF構造になり、細胞の中に蓄積していたのです。

 

p.92
こうして、老人斑の方が神経原線維変化よりもアルツハイマー病の上流に位置しているだろうと考えられるようになります。では、アルツハイマー病により独特な病変は老人斑と神経原線維変化のどちらかといえば、これも老人斑です。

 

p.93
アルツハイマー病の「主犯」は老人斑であり、その主成分であるアミロイドβだろうという見方が強くなっていきました。

 

p.94
アミロイドβ前駆体タンパク質(APP)が酵素によって切断されると、アミロイドβが作り出される=分泌されることが確認されます。

APPの特定の部位が酵素によって切断されるとアミロイドβが切り出されるのです。APPを切断するハサミの役割をする酵素はアミロイドβの分泌(secretion)を促すというので、セクレターゼと名づけられました。

 

p.95
そこで提唱されたのがアミロイドカスケード仮説=アミロイド仮説です。

ー神経細胞で産生されるとAPPからアミロイドβが切り出され、神経細胞外に放出されると、何らかの理由でこれが神経細胞の周りに蓄積(沈着)して老人斑になる。この老人斑が神経細胞にダメージを与えるなどの問題を引き起こし、シナプスや神経細胞が傷害され、細胞内部では神経原線維変化が起きる。そして神経細胞の機能障害、神経細胞死が起き、認知症になるー

 

p.113
第21染色体を3本持つダウン症(第21染色体トリソミー)はアルツハイマー病を発症しやすいことなどから、以前からアルツハイマー病とダウン症の関連が示唆されていました。このことから、アルツハイマー病の原因遺伝子も第21染色体上にあるのではないかと考えられたのです。

その第21染色体上に、アミロイドβを生み出すAPP遺伝子があるとわかったのです。

 

p.114
APP遺伝子の変異は、APPからアミロイドβを切り出すハサミとして働くふたつの酵素、βセクレターゼとγセクレターゼのうちのγセクレターゼに作用するものが多いようです。

 

p.115
このようにさまざまな変異がありますが、APP遺伝子の変異が原因で起きている家族性アルツハイマー病は1割程度と少数です。

 

p.116
プレセニリンはAPPからアミロイドβを切り出すハサミのひとつ、γセクレターゼを構成するか、あるいはその中心となって働く酵素だと考えられます。

 

p.117
問題はアミロイドβ40とアミロイドβ42の比率にあるようで、アミロイドβ42の比率が高くなることが老人斑の形成につながります。そしてアルツハイマー病の病理カスケードが進みます。

 

p.118
特定のタイプのアポリポタンパクE(アポE)は、アルツハイマー病の最も重要な危険因子だとわかったのです。

 

p.119
アポE4を持つひとは、どちらかといえば少数の型といえます。ところがアルツハイマー病患者の多くはこの型でした。リスクが最も高いのは、ε4/ε4の遺伝子タイプで、ε3/ε4よりアルツハイマー病の発症年齢が早まり、発症率が増加します。

アポE4の遺伝子はアルツハイマー病のリスク遺伝子ではありますが、原因遺伝子ではないのです。

やはりアポE4はアルツハイマー病の上流にかかわってアミロイドβの蓄積や凝集を促進させるために、アルツハイマー病になる年齢が早まるようです。

 

p.134
脳の血管には血液脳関門という機構があり、血液中から脳に必須な物質だけが取り込まれ、ほかの物質は排除されます。全身を制御している重要な臓器である脳を守るための機構ですが、この機構があるために薬なども脳に入りにくく、タンパク質の一種である抗アミロイドβ抗体が血液脳関門を通るとは到底考えられませんでした。
しかしシェンク博士は、ごくわずかでも抗体が血液脳関門をすり抜けて脳に入ることができれば効果はあると考え、実験を進めました。

 

p.139
アミロイドβはAPPから切り出されます。

APPは「膜タンパク質」のひとつで、細胞膜を縫うように突き刺さる「膜貫通タンパク質」というタイプです。細胞膜に突き刺さったAPPからアミロイドβが切り出されます。APPは分子量約7万、アミロイドβは分子量約4000ですから、アミロイドβはAPPのごく一部の断片であることがわかります。

 

p.140
アミロイドβが切り出されるのはどこからか。培養細胞の実験によって見つかったのは、APPのアミノ酸配列の3か所の切断部位と、それぞれに作用する酵素でした。この酵素は、タンパク質分解酵素(プロテアーゼ)の一種で、セクレターゼと総称されます。前述のように、アミロイドβの分泌(secretion)を促すので、セクレターゼと名づけられました。αセクレターゼ、βセクレターゼ、γセクレターゼと名づけられた3つの切断部位で、ハサミとして働きます。

 

p.141
切断にはふたつの経路があります。ひとつはまずαセクレターゼが作用して次にγセクレターゼが作用する、もうひとつは、まずβセクレターゼが作用してγセクレターゼが続くという経路です。
前者の経路でαセクレターゼとγセクレターゼが働くと、アミロイドβよりも短いアミノ酸配列が切り出されます。この断片はp3と呼ばれますが、分解されて蓄積することはありません。
後者のβセクレターゼとγセクレターゼが働いて切り出されるのが、アミロイドβです。

 

p.141
主にアミロイドβ40と42とがあって、アミロイドβ42のほうが凝集しやすく、毒性も強いことがわかっています。さらに私たちは、アミロイドβ43が非常に毒性が強いことを2011年に発見しました。アルツハイマー病にはアミロイドβ42、43がより深くかかわっていると考えられるのです。

 

p.142
どのタイプであっても、アミロイドβを切り出すのは、βセクレターゼとγセクレターゼであり、γセクレターゼの働く部位の違いがアミロイドβのタイプによって異なるようです。
そこでアルツハイマー病根本治療薬のターゲットとなるのが、ハサミであるβセクレターゼ、あるいはγセクレターゼです。このどちらかの働きを阻害すれば、アミロイドβの産生は抑制されると考えられます。つまりβセクレターゼ阻害薬あるいはγセクレターゼ阻害薬によって、アルツハイマー病は食い止めることができると考えられるのです。

 

p.144
γセクレターゼはAPPからアミロイドβを切り出す働きをするだけではありません。APP以外の重要なタンパク質を切り出すときにも作用していることがわかっていました。セマガセスタットの使用によってそのタンパク質に問題が生じ、副作用が出たと考えられます。

 

p.148
βセクレターゼ阻害薬も、アミロイドβの産生を抑制することに成功したとしても、異常が起きることがありえるという、γセクレターゼ阻害薬と同様の問題が明らかになったのです。そこで多くの製薬会社は現在、APPの切断にだけ作用し、ほかのタンパク質に影響しないβセクレターゼ阻害薬の開発を進めています。

 

p.148
そうした中で注目されるようになったのがタウをターゲットとした創薬です。
アミロイドβはアルツハイマー病の二大病変のひとつである老人斑の主な構成成分ですが、タウはもうひとつの病変である神経原線維変化の主成分です。

 

p.149
アミロイドβの蓄積がなければタウの異常凝集は起きないわけで、アルツハイマー病の流れの、より上流にあるのはアミロイドβです。

 

p.150
アミロイドβも凝集の過程で毒性を持ち神経細胞を死滅させますが、直接的に認知症にかかわるのはタウだともいえます。

 

p.172
だせの脳でもアミロイドβは産生され、分解されています。その産生速度と分解速度のバランスが保たれていれば、一定量のアミロイドβが脳にあっても、蓄積することはありません。

家族性アルツハイマー病では、アミロイドβ42の産生速度が加速しますが、分解速度は変わりません。そこで産生と分解のバランスが崩れ、アミロイドβ42が凝集・蓄積します。
また産生速度は変わらなくても、分解速度が落ちればバランスが崩れます。結果としてアミロイドβは蓄積されます。これがアルツハイマー病の脳で起こっていると私たちは考えたのです。

 

p.174
アミロイドβが蓄積するか否かは産生と分解のバランスで決まる。つまり、分解系は産生系と対をなしてアミロイドβの量を決めているわけです。仮に分解系の活性が半分に減り、働きが鈍ると、産生系が2倍の速度になるのと同じくらいアミロイドβの蓄積を進めることになります。

 

p.177
アミロイドβオリゴマーは、タウのリン酸化という異常を誘導することもわかっていますから、毒性を発揮するだけでなく、神経原線維変化を作ることにも影響します。この異常なタウあるいは神経原線維変化は毒性を持っているので、シナプスや神経細胞を傷害し、機能不全を起こします。神経細胞が死滅すれば脳は萎縮します。そして認知機能の低下が起きる。このようにアミロイドβの毒性とタウの毒性とが複雑に絡み合い、影響し合ってアルツハイマー病が進行するのです。

 

p.184
最終的にネプリライシンが主要なアミロイドβ分解酵素であることを私たちが確認したのは、ネプリライシンノックアウトマウスの実験の結果です。

 

p.192
モーリス水迷路試験とは、円柱形の水槽内にプラットフォームを1か所設けて水を張り、その水槽の中にマウスを放すトライアルを繰り返す試験です。水を嫌うマウスは泳ぎ回りますが、プラットフォームに到着すれば休むことができます。
どのマウスもはじめは闇雲に泳ぎますが、トライアルを繰り返すうち、記憶学習能力が正常なマウスはプラットフォームに到着するまでの時間が短くなります。周囲の景色とプラットフォームとの位置関係を学習・記憶するからです。記憶学習能力に障害のあるマウスは何回繰り返しても到着時間が短くはなりません。そこで到着時間の評価から記憶学習能力、認知機能が判定できるわけです。

 

p.193
この遺伝子治療はウイルスベクターを血液などに投与すればよいので、注射で行うことができます。ネプリライシン遺伝子は脳では広範囲にいきわたり、ネプリライシンを活性化させてアルツハイマー病の原因であるアミロイドβや毒性の高いアミロイドβオリゴマーを減少させます。
ウイルスベクターは安全で、また、脳内でネプリライシンの量をコントロールできることがわかっています。また、脳以外の臓器には影響しません。この方法ではネプリライシン遺伝子の働きは長く続き、一回の注射で10年以上の効果が期待できるので、予防法としても優れています。
重要なのは、この治療ではアルツハイマー病発症後の認知機能の低下も改善できるということです。

 

p.195
探索の結果、私たちが突き止めた鍵、ネプリライシンの活性を調整する因子は「ソマトスタチン」というペプチドでした。

 

p.196
ソマトスタチンの減少は、
→ネプリライシンの活性低下
→アミロイドβやアミロイドβオリゴマーの分解の低下
→アミロイドβの蓄積やアミロイドβオリゴマーの形成
→アルツハイマー病へ
という流れを引き起こすと考えられます。

 

p.197
さて、ソマトスタチンという鍵がソマトスタチン受容体(SSTR)という鍵穴に差し込まれるとネプリライシン活性化システムが作動し、アミロイドβの分解が促進されるとわかりました。これはネプリライシンを活性化させる薬の開発、創薬の可能性を示しています。

 

p.203
アメリカでは2011年に成立した国家アルツハイマープロジェクト法(NAPA)に基づき、国家プランが策定されています。その第一の目標として掲げられているのは「2025年までにアルツハイマー病の予防と効果的な治療を実現する」ことです。

 

アルツハイマー病は治せる、予防できる (集英社新書)

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