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【書評】「ゲノム編集の衝撃」(日本放送協会)のレビュー

ゲノム編集の衝撃 「神の領域」に迫るテクノロジー

ゲノム編集の概念と実態についてわかりやすく書かれた入門書。

評価:★★★★☆(4/5)

 

学びと感想

ゲノム編集について書かれた本は何冊か読んだが、この本は一般人にもわかりやすく書かれている。ゲノム編集と遺伝子組み換えとの違い、クリスパー・キャス9という技術の社会的インパクト、歴史、最新の研究動向などが、難しい専門用語をほとんど使わずに紹介されているので、ゲノム編集の入門書としてふさわしい。

テクニカルな知識ではなく、ゲノム編集技術の持つ魅力とその危険性について私たちが最低限知っておくべきことにフォーカスを当てて説明がされており、正しい知識を得ることができる。

クリスパー・キャス9とZFN、TALENとの違いが素人でもわかりやすくまとめられているのは良かった。

研究者への取材についてもされており、実際に今、ゲノム編集と絡めてどのような研究が行われているのか、その研究がどういった影響を今後与えることが期待されるのかを知ることができるのも興味深い。

ゲノム編集についての深い説明はされていないため、さらに知識欲を満たしたい場合は他の本と併読することをおすすめするが、ゲノム編集の抽象的な全体像を把握したい人には非常におすすめできる本である。

 

引用

p.56
遺伝子組み換えは、種を超えて新たな遺伝子を「挿入」する技術だ。

 

p.56
それまで糖尿病の治療薬のインシュリンはブタなどのすい臓から抽出されていた。しかし遺伝子組み換え技術によって大量生産ができるようになった。大腸菌や酵母の遺伝子にヒトのインシュリンの、遺伝子を組み込んで培養することで、ヒトのインシュリンを大量に製造できるようになったのだ。これは糖尿病の治療に大きな貢献を果たした。

 

p.58
遺伝子組み換えは偶然に頼った技術だった。長い時間と手間を要する、誰もが簡単にできる技術ではなかったのだ。
これを、狙い通りにできるようにしたのが、ゲノム編集だ。

 

p.59
ノックアウトマウスをつくるには、多くの労力と時間がかかる大変な作業だったのだ。

 

p.62
ジンクフィンガーは、一つが三つの塩基をセットで認識する。

 

p.62
一つの塩基に一つのTALリピートが結合するようにしたのだ。

ターレンは、標的としていないDNA配列を誤って切断してしまうことが少ないとされていて、評価は今もなお高いものがある。

 

p.66
クリスパー・キャス9は、大きく二つの要素から出来ている。RNAで出来た「ガイドRNA」と呼ばれる部分と、DNAを切断する酵素であるキャス9と呼ばれる部分だ。
ガイドRNAは文字通り、DNAのどの部分を標的として切断するのか案内するガイド役だ。

 

p.68
そのガイドRNAは、DNAの二本鎖を切断する酵素(制限酵素)であるキャス9と、一つの複合体を形成する。これを、遺伝子操作をしたい細胞に組み込むと、目的のDNAの配列を探し出し、キャス9がDNAを切断するのだ。

 

p.69
今、RNAは極めて簡単に作製できる。第一世代や第二世代のゲノム編集でガイドとして使っていたタンパク質が、第三世代のクリスパー・キャス9では必要なくなり、RNAとキャス9を準備するだけで事足りるようになった。作業のプロセスはこれまでとは比較にならないほど容易になった。この手軽さが、クリスパー・キャス9の爆発的な普及の理由だ。

 

p.70
植物には細胞壁があるため、クリスパー・キャス9を細胞の中に届けるのが難しいからだ。そのため、植物の場合には遺伝子組み換え技術を使ってガイドRNAとキャス9を発現する遺伝子を組み込んだ細菌(ベクター)を細胞内に入れ込む方法が取られている。

 

p.72
ゲノム編集は、ねらった遺伝子だけをターゲットにしないケースがあることもわかっている。「オフターゲット作用」と呼ばれる現象だ。

 

p.144
HIVは、血液に入り込むと白血球に取り付いて増殖することが知られている。白血球の表面にある突起にくっつき、それを足がかりに、白血球の中に侵入し、増殖していくのだ。そこで、サンガモ社では、白血球のこの突起に関係した遺伝子をゲノム編集(ZFNによる)で切断した。そうすることで、白血球の表面から突起をなくし、HIVが白血球に侵入できないようにしたのだ。

 

p.148
本来ならT細胞は、がん細胞を攻撃するべきなのだが、がん細胞がこれを回避するような様々なトリックを行い、免疫機能をかわしながら増殖していくのである。がん細胞の、このいわゆる「主要免疫回避機構」と呼ばれる働きを抑え、免疫機能を強化することでがんの増殖を抑えようというのがCAR-T療法である。

 

p.155
しかし、筋ジストロフィーの場合、このメカニズムが異常を起こして、ジストロフィータンパク質がつくられなくなってしまう。エクソンの塩基がない状態になっているからだ。
エクソンの塩基がなくなると何が起こるのか。一部の塩基がそろわなくなり、そのずれによって、本来指定されるはずだったアミノ酸が指定されず、タンパク質をつくるのに必要なアミノ酸がそろわなくなり、病気になってしまうというのだ。

 

p.161
しかし、このXという配列がゲノムの中に二つ以上存在していた場合、ゲノム編集技術ではこの二つとも切ってしまう恐れがある。オフターゲット作用だ。そうなると、病気の一部が治ったとしても、ほかの部分で何らかの病気を発症する可能性があるし、場合によっては命にかかわることもあるかもしれない。
こうしたことを防ぐため、堀田助教はエクソン45の中でも、ほかに同じ配列が見られないユニークな配列の特定を進めた。そして、そこをピンポイントでターゲットにしたのだ。

 

p.176
【遺伝子組み換えとは違う派】
「ゲノム編集された生き物は、一般の生き物と同じだ」
こうした変異は自然界でも起きている。太陽からの紫外線や自然界の放射線で遺伝子は絶えず傷つけられ、細胞内では遺伝子の変異が蓄積されている。さらに、突然変異体として、すこし変わった生き物が誕生することは、生物の集団の中で絶えず起きている。

 

p.177
【遺伝子組み換えと同等に扱うべき派】
「ゲノム編集された生き物は、厳しいルールを適用して扱うべきだ」
先ほどの例に従えば、確かに白いカエルは自然界に存在する。しかし、その頻度はまったく自然界とは異なる。

つまり自然界で起きていることと同等とは言い難い。加えて、実際に人が遺伝子を操作しているという事実もある。

 

p.185
一つ目は、「どういう条件をクリアすれば安全な食品とみなせるか」という基準づくりだ。

 

p.186
二つ目は、一般の人たちにゲノム編集について正しい知識を持ってもらうとともに、何が不安なのかを聞き取る作業だ。

 

p.207
そして重要なのが「本気度」だ。研究者の中には、国などから出る研究費を獲得するテクニックとして、社会に受け入れられやすい目標を掲げたり、聞こえのよいテーマを設定したりすることが少なからずある。それとは対極の姿勢が必要となる。社会が本当に必要としていて、ゲノム編集でなければできないことに、困難があっても取り組んでいく姿勢だ。

 

ゲノム編集の衝撃 「神の領域」に迫るテクノロジー

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