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【書評】「光るクラゲがノーベル賞をとった理由」(生化学若い研究者の会/石浦章一)のレビュー

光るクラゲがノーベル賞をとった理由―蛍光タンパク質GFPの発見物語

GFP(緑色蛍光タンパク質)発見に関するエピソードや機能を初心者でもわかりやすく学べる。

評価:★★★★☆(4/5)

学びと感想

下村脩先生のハードワークによってGFPは発見されたが、最初はイクオリンの副産物的な扱いであまり注目されていなかったらしい。しかも下村先生自身、GFPよりもイクオリンの方に興味があったというのだから驚きである。

GFPは生命科学の研究発見に計り知れない貢献をした。目で見えるということは、私たちの二次感覚情報を使う領域を大きく広げた。GFPがなければ未だに解明していない事象が数多く残されていただろう。

またFRETの原理についても初心者にわかりやすく記載されている。化学を学んだ僕としては非常に馴染み深い内容であった。

僕たちは今後、GFP以上の発見をすることができるのだろうか。GFP以上の概念が見つかるのかと想像すると、わくわくが止まらない。

 

引用

p.19
蛍光ペンは明るいところではきれいな色に光って見えていますが、暗いところではまったく光りません。このように、自ら光を作らず、他から光を受けることで光を発する現象を「蛍光」と呼びます。

 

p.21
下村博士はオワンクラゲの体内から、この蛍光タンパク質(GFP)を世界で初めて取り出すことに成功しました。

なぜオワンクラゲは暗いところで光ることができるのでしょう?これは、オワンクラゲは蛍光タンパク質(GFP)とともに、発光タンパク質も併せてもっているからです。つまり、オワンクラゲは発光タンパク質によって(青い)光を出しておきながら、その光を蛍光タンパク質によって自ら吸収して別の(緑)色の光として出しているのです。

 

p.41
「光る」ことは「見える」ことにつながります。真っ暗な夜の海の中で船を導く灯台のように、光る物質は実験室において人間の目では見分けることが難しい、とても小さな生体分子や細胞を捜すために使われています。

 

p.46
このルシフェリンという物質はホタルなどの発光生物がもつ発光物質の総称で、ルシフェラーゼという酵素に触媒されて発光します。

 

p.47
当時、生物発光といえばこの「ルシフェリンールシフェラーゼ系」しかない、という認識があり、下村博士の上司であるジョンソン教授も例外ではありませんでした。そのため、「オワンクラゲにもルシフェリンールシフェラーゼ系が関与しているに違いない」という考えのもと、オワンクラゲからルシフェリンとルシフェラーゼを精製するための実験を始めたのです。

 

p.49
「上の人の話を素直に聞くような人間じゃない。そうかといって、人と争う気もないし、競争は嫌い」と自らの性格を語る下村博士。

 

p.52
海水中にはカルシウムイオンが多く含まれています。博士はこのことに気づき、カルシウムイオンの濃度が発光を調節することも発見しました。最終的には、発光を止めるにはpHを調節するよりも、溶液中のカルシウムイオン濃度を調節するEDTAという物質を使った方が便利であることがわかったのです。

 

p.54
ノーベル賞はこれまでにも、ラジウムや視床下部ホルモンの発見など、莫大な量のサンプルから非常に微量の目的物質を精製する、という仕事に対して栄誉を与えてきた歴史があります。ある意味、博士の研究方法はノーベル賞の王道パターンであったともいえます。

 

p.63
イクオリンにはタンパク質であるアポイクオリンにルシフェリンの一種である「セレンテラジン」という物質が結合しています。ここにカルシウムイオンが結合すると、アポイクオリンがルシフェラーゼのような役割をし、発光が起こるのです。つまり、イクオリンは全自動洗濯機のように、発光に関わる物質と、それを触媒する物質の両方の機能を持っているのです。

 

p.72
下村博士の発見した蛍光タンパク質GFPは、青色の光を受けると励起状態になります。この状態では、GFPのもつ電子が興奮して普段よりも高いエネルギーを持っている状態になります。一度励起状態になると、今度は自然に興奮した電子のエネルギー状態が下がり、エネルギーが変換されて緑色の蛍光を発します。これが「蛍光」が生じる原理です。

 

p.90
遺伝子組み換え技術を語る上で大切なものが三つあります。それは、プラスミド、制限酵素、リガーゼです。

 

p.90
まず、プラスミドはある生き物から別の生き物に遺伝子を移すときの運び屋として使われます。プラスミドは遺伝子と同じようにDNAからできていて、自身のDNAを複製して増やす仕組みをもっています。

 

p.91
遺伝子だけでは、自分自身を複製して増やす仕組みをもっていないのです。この問題を解決してくれるのがプラスミドです。自分自身を複製する仕組みをもつため、目的の遺伝子をプラスミドの適切な位置にはめ込むと、その遺伝子と一緒になって増えてくれます。

 

p.91
遺伝子をプラスミドにつなぎ合わせる場合には、つなぎ合わせたい遺伝子をもともとあった場所から切り出して、さらに、プラスミドにも遺伝子を受け入れるための切り込みをいれておく必要があります。そこでまず、切るときに使うのがDNAの「はさみ」である制限酵素です。

 

p.92
ただし、制限酵素によって切断したDNAをプラスミドにはめ込むには、目的のDNAとプラスミドをつなぎ合わせる「のり」が必要です。細菌から私たちヒトまで、すべての生物が、化学物質や紫外線で傷ついたDNAを修復するときにリガーゼという分子を使っています。この分子が、DNAの切れ端どうしをつなげるときに、「のり」の働きをするのです。制限酵素で切れた目的遺伝子の両端と、プラスミドの切れ目とをつなげてくれます。
以上のように、GFPの遺伝子の両端を制限酵素で切り出し、また同じ塩基配列を認識する制限酵素で切ったプラスミドと混ぜ、リガーゼと反応させれば、GFP遺伝子を持ったプラスミドの完成です!

 

p.94
プラスミドは細胞の中で自分自身を複製する仕組みをもっています。そのため、細胞の中に入れると、同じプラスミドがどんどん増えていきます。たとえば大腸菌に入れると、非常に効率よく多くのプラスミドを増やすことができます。

さらに大腸菌とともに増えるのはプラスミドにはめ込まれた遺伝子だけではありません。遺伝子からはタンパク質が作られるのでした。したがって、大腸菌の増加でプラスミドにはめ込まれた遺伝子がふえる増える結果、遺伝子から作られるタンパク質もまた大量に作られるようになるのです。

 

p.96
これまで述べてきたような遺伝子組み換え技術を利用することによって、オワンクラゲ以外の生物にもGFPを作らせることができるようになりました。

 

p.105
チャルフィー博士はGFPを線虫のからだの中で光らせました。

 

p.107
チェン博士はチャルフィー博士の発見を受けて、GFPの構造を変化させて緑色以外にも光る蛍光タンパク質を次々に作り上げました。

 

p.108
チェン博士の功績を二つのキーワードで言い表すことができます。「多色観察」、そして「FRET」です。
「多色観察」はその名の通り、観察しているものを多色に光らせることをいいます。たとえば、蛍光タンパク質を目印にして、あるタンパク質と、また別のタンパク質の動きを同時に見たいと思ったとします。もし、世界に蛍光タンパク質がGFP一種類しかなかったら、二種類のタンパク質を区別して観察することはできません。しかし、まったく違う色を持つタンパク質があれば、二種類のタンパク質の動きを、色の違いからはっきりととらえることができます。

もう一つのキーワード「FRET」は、少し化学的なお話です。FRETはForster Resonance Energy TransferまたはFluorescent Resonance Energy Transfer(蛍光共鳴エネルギー移動)の略語であり、二種類の蛍光タンパク質が非常に近づいたときにのみ生じる現象です。二つの異なる蛍光タンパク質が非常に近い(ナノメートル単位)距離にあるとき、片方の蛍光タンパク質が持っているエネルギーの一部がもう片方の蛍光タンパク質に直接移動する現象のことです。

 

p.110
CFPとYFPが存在するところにCFPの励起光(436nm)を当てると、通常ならシアン色の蛍光(480nm)が観察されます。ところが、CFPとYFPが非常に近い距離にあるとき、CFPから発せられた光をYFPが励起光として受け取ります。その結果、YFPが黄色の蛍光(535nm)を発します。図の右のグラフを見ると、CFPから放出される蛍光の一部が、YFPの励起光として吸収されることがわかります。CFPとYFPが近くにあるかどうかを、出てくる蛍光の色で判断できるのです。
このFRET現象を利用することで、注目する二つのタンパク質が、細胞の中で相互作用するかどうかを確かめることができます。相互作用をみたい二つのタンパク質に、それぞれCFPおよびYFPを付けておけばよいのです。もし二つのタンパク質が離れていればシアン色の光が観察され、もし相互作用して近くにいれば、FRETが起こって黄色の光が観察されます。タンパク質とタンパク質の相互作用を見ることができるFRETイメージングは、まさに分子の世界のやりとりを可視化する画期的な方法なのです。

 

p.117
外側を取り囲んでいるシート状の部分を、βシートと呼びます。これが並んでいる様子がGFPの立体構造の最大の特徴です。この構造はβバレルと呼ばれています。

 

p.123
では、なぜGFPはここまで浸透したのでしょう。ただ「光る」というだけならルシフェリンやイクオリンでも良かったはずです。GFPは単体で発光し、さらにそのサイズが大きすぎず、適度な大きさをもつという特長から、「タンパク質の可視化」において重要な役割を果たしてきたからなのです。

 

p.130
GFPは、「見たいものだけを見る」ということを可能にしました。

それに加えて、GFPの最大の利点は、「細胞を生きたまま観察できる」ということです。

 

p.133
がん細胞をGFPで印をつけておき、マウスの臓器に青色の光を照射すると、正常に見えていた部分に緑色に光っている塊が見られるようになります。これが、がんです。がん細胞にのみGFPを導入しているため、青色の光を照射するとGFPが緑色に光り、正常細胞と区別して明確に見分けることができるようになります。

 

p.153
内部の配列を少し改変したGFP(circularly permutated enhanced GFP: cpEGFP)に、カルモジュリンと、さらにそれと相互作用するタンパク質の断片(M13)を融合させます。
カルシウムイオンがカルモジュリンに結合すると、これがM13断片と相互作用して、GFPとのつなぎ目の部分で立体構造が大きく変化します。GFPの構造が変わることで、カルシウムイオンが結合していないときに比べて、強い蛍光を発することができるようになります。
カルシウムイオンによってGFPの構造が変わり、蛍光の強さが大きく変わることで、カルシウムイオンの増減が一目で分かるようになりました。こうして作製されたカルシウムセンサーは、G-CaMP(ジー・キャンプ)と呼ばれています。

 

p.156
GFP改変カルシウムセンサーならば、遺伝子組み換え技術によってある特定の細胞にだけ導入できるので、細胞を選択的に光らせることができます。

 

p.157
もう一つの利点は、GFP改変カルシウムセンサーは、長時間の観察に向いているということです。これまでの有機低分子センサーは、実験をしている間にどんどん酸化してしまい、徐々に蛍光が弱くなっていくため、長期間にわたって神経細胞の活動を追うことは、非常に困難でした。
しかし、GFP改変カルシウムセンサーの場合、センサー遺伝子を神経細胞にいったん導入すれば、長時間安定してセンサーの蛍光を得ることができます。実際に、GFP改変カルシウムセンサーをマウスの神経細胞に導入することで、同じ神経細胞から、数週間という長期にわたる活動を記録できるようになりました。

 

p.159
GFPは酸性のpH環境を嫌い、pH5.5以下では急速に蛍光を失ってしまいます。これを逆手にとって、pHの変化を感知するセンサーとして、GFPを使うこともできるのです。

 

p.161
シナプス小胞の中は、普段pHが5.6の酸性状態に保たれています。ところが、細胞の外側のpHはおよそ7.4なので、シナプス小胞の開口によって神経伝達物質が放出されるとき、小胞の中では大きくpHが変化することになります。
つまり、シナプス小胞の内側にGFPを結合させておけば、シナプス小胞の開口に伴って、今まで酸性環境で光ることのできなかったGFPが、蛍光を発することができるようになるわけです。これによって、GFPの光った時間から、神経伝達物質がシナプスへと放出されるタイミングを計測することができます。

 

光るクラゲがノーベル賞をとった理由―蛍光タンパク質GFPの発見物語

光るクラゲがノーベル賞をとった理由―蛍光タンパク質GFPの発見物語